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法務担当がいない広告代理店のための法令チェック入門|「全部わかる」を目指さない体制の作り方

専門家が社内にいない代理店が目指すべきは、「担当者全員が法令に詳しくなること」ではありません。危ない箇所を拾い、正しくエスカレーションする仕組みを作ることです。案件ごとに商材が変わる代理店業務で、全法令を習得するのは現実的ではないからです。一方で、専門知識がなくても拾える危険信号と、クライアントに聞けば分かることは想像以上に多くあります。この2つを押さえるだけで、リスクの大半は手前で止められます。
この記事のポイント
- 目指す状態: 全部判断できることではなく、危険を拾って適切に回せること
- 専門知識なしで拾える危険信号: 言い切り/最上級/数値/第三者の声/ビフォーアフター/期間限定/権威づけ の7パターン
- 最も効くアクション: クライアントへの確認質問をテンプレート化する
- 外部リソース: JAROの会員相談室、自治体の薬務主管課(いずれも代理店からの相談を受付)
「薬事の専門家なんてうちにはいない」「でも医療や健康食品の案件は来る」。この状態で案件を回している代理店・制作会社は少なくありません。本記事では、専門部署を新設せずに、今いる人員で機能させる体制の作り方を整理します。
なぜ代理店は法令チェックに困るのか
対策を考える前に、困る理由を構造として理解しておくと、打ち手を間違えにくくなります。
① 案件ごとに商材が変わる
事業会社であれば、自社商材に関する法令だけを深く理解すればよい構造です。しかし代理店は、化粧品の案件の次に健康食品、その次にクリニック、さらに雑貨と、案件ごとに適用法令が変わります。
薬機法、景品表示法、健康増進法、医療法、特定商取引法。それぞれに通知や事務連絡が紐づき、随時更新されます。担当者個人が全領域をカバーし続けるのは、現実的ではありません。
とくに混同しやすいのが、代理店業務で最も頻繁に関わる薬機法と景品表示法です。両者は目的も対象も異なります。
| 薬機法 | 景品表示法 | |
|---|---|---|
| 目的 | 医薬品等の品質・有効性・安全性の確保 | 一般消費者の自主的かつ合理的な選択の保護 |
| 対象商品 | 医薬品・医薬部外品・化粧品・医療機器・再生医療等製品 | すべての商品・サービス |
| 規制対象者 | 「何人も」(第66条第1項)。代理店にも直接適用 | 原則として商品・役務を供給する事業者(広告主) |
| 主な規制内容 | 虚偽・誇大広告、承認前医薬品等の広告 | 優良誤認表示、有利誤認表示、ステルスマーケティング告示等 |
| 主な所管 | 厚生労働省・都道府県 | 消費者庁・都道府県 |
この違いが、次に述べる「責任は負うのに判断材料がない」という代理店特有の状況につながります。
② 責任は負うのに、判断材料が手元にない
ここが代理店特有の難しさです。
景品表示法上の責任主体は、原則として商品・役務を供給する広告主です。一方で薬機法第66条第1項は「何人も」を規制対象としており、代理店にも直接適用されます。つまり責任からは逃れられない立場にあります。
ところが、判断に必要な情報は代理店の手元にありません。
- その効果に根拠資料があるのか
- 「No.1」の調査は誰がどう行ったのか
- 体験談はどう集めたのか
- 表示価格で実際に何件成約しているのか
いずれもクライアント側にしかない情報です。原稿だけを睨んでも判断できないという構造的な問題があります。
③ クライアント側にも専門家がいないことがある
「クライアントが確認しているはず」という前提が成り立たない場合があります。発注元の担当者もマーケティング担当であり、薬事の専門家ではないケースは珍しくありません。
結果として、誰も確認しないまま公開される、という事故が起こります。
目指すべきは「全部わかる」ではない

以上を踏まえると、現実的な目標設定は次のようになります。
悪い目標: 担当者が薬機法・景表法を理解し、自力で可否を判断できるようになる 良い目標: 危険な箇所を見つけ、必要な情報をクライアントに確認し、判断が難しいものを専門家に回せる
後者であれば、専門部署がなくても機能します。必要なのは知識の深さではなく、拾う力と回す仕組みです。
専門知識なしで拾える7つの危険信号
法令を知らなくても、「この表現は確認が必要だ」と気づくことはできます。過去の行政処分事例に共通して現れるパターンを7つに整理しました。
① 言い切り
「シミが消える」「痩せる」「治る」のように、効果を断定している表現です。
効果を断定した瞬間、その根拠が問われます。商材が食品や雑貨であれば、医薬品的な効能の標ぼうとして薬機法上の問題にもなり得ます。
② 最上級・ランキング
「No.1」「業界トップクラス」「最高」といった表現です。
調査の実施主体・対象・期間・出典を示せなければ、優良誤認表示となります。アフィリエイターや制作担当が独自に足したケースもあるため、誰が入れた表現かも確認が必要です。
③ 数値
「吸収量200cc」「90%が実感」「2週間で」といった具体的な数字です。
数値は信頼性を高める一方、根拠が明確に求められます。注意すべきは、データが存在していても、測っている内容と訴求内容がズレていれば根拠として認められない点です。試験データの有無だけでなく、何をどう測ったのかまで確認する必要があります。
④ 第三者の声
体験談、口コミ、アンケート結果、インフルエンサー投稿などです。
誰がどう集めたのか、対価の提供があったのかが問われます。対価を払って依頼した投稿であれば、関係性の明示がなければステルスマーケティング告示に抵触します。
⑤ ビフォーアフター
施術前後の写真、使用前後の比較画像です。
医療広告では付記事項が必要になり、化粧品・健康食品では効果の断定とみなされやすい表現です。文字がなくても、画像そのものが効果を示してしまう点に注意が必要です。
⑥ 期間限定・数量限定
「本日限り」「先着○名」「今だけ」といった表現です。
実際にその条件で運用されているかが問われます。常時同じ価格で購入できるにもかかわらず限定を装えば、有利誤認表示となります。
⑦ 権威づけ
「医師監修」「専門家推奨」「第三者機関認定」「テレビで話題」といった表現です。
薬機法第66条第2項は、医師その他の者が効能等を保証したと誤解されるおそれがある記事の広告を禁じています。監修の事実があること自体は問題なくても、効果が保証されているかのような構成は避ける必要があります。
この7つに該当する表現が原稿にあれば、必ず確認工程に入れる。 これだけで、拾い漏れは大きく減ります。
クライアントへの確認質問テンプレート
危険信号を拾ったら、次は情報を集めます。専門知識がなくても、聞くべきことを聞けば判断材料は揃います。
以下はそのまま社内で使える形にしたものです。該当する項目だけ使ってください。
商材の基本情報(全案件共通)
- この商品の区分を教えてください(医薬品/医薬部外品/化粧品/医療機器/一般食品/機能性表示食品/栄養機能食品/特定保健用食品/雑貨)
- 機能性表示食品の場合、届出番号と届出表示の原文をご共有ください
- 医薬部外品の場合、承認を受けている効能効果の範囲をご共有ください
効果に関する訴求がある場合
- この効果の根拠となる資料はありますか
- その試験は、何を対象に、どのような条件で測定したものですか
- 試験の対象者に条件はありますか(年齢、症状の程度など)
- 自社製品を用いた試験ですか、それとも成分に関する研究レビューですか
「No.1」「業界トップ」等の表示がある場合
- 調査を実施したのはどこですか
- 調査対象、調査期間、調査方法を教えてください
- 出典として表示できる形になっていますか
体験談・口コミを使う場合
- どのように集めた声ですか(アンケート/モニター/SNS募集など)
- 対価や謝礼の提供はありましたか
- 被験者数と、効果を実感した人・しなかった人の割合は把握していますか
価格を訴求する場合
- 表示価格以外に、必須となる費用はありますか
- その価格で実際にどの程度の割合が成約していますか
- 「期間限定」の場合、その期間外は実際に異なる価格ですか
インフルエンサー施策を含む場合
- 対価を提供して投稿を依頼していますか
- 投稿にPR表記を入れるルールは共有済みですか
- その投稿を自社サイトに転載する予定はありますか
この質問に答えられないクライアントは、そもそもリスクを抱えています。 確認プロセス自体が、クライアントにとっての価値にもなります。
エスカレーション基準を決めておく
すべてを自社で判断しようとすると、担当者が抱え込んで止まります。どこからは外に出すかを事前に決めておくことが重要です。
社内で判断してよいもの
- 7つの危険信号に該当せず、事実の記載にとどまるもの
- 過去に同種の案件で確認済みのパターン
クライアントに確認を求めるもの
- 7つの危険信号に該当するが、根拠を確認できれば判断できるもの
外部の専門家・相談窓口に回すもの
- 商材の区分自体が不明確なもの(雑貨か医療機器かの判断など)
- 根拠資料を見ても、十分かどうか判断できないもの
- 過去に前例がなく、違反となれば影響が大きいもの
基準を文書化し、担当者が迷ったときに参照できる状態にしておくと、属人化を防げます。
外部リソースの使い方
社内に専門家がいなくても、使える窓口があります。
JARO(日本広告審査機構)の会員相談室
JAROは広告・表示に関する民間の自主規制機関で、広告主・媒体社・広告会社・広告制作会社を会員としています。会員向けに会員相談室を設けており、景品表示法・薬機法・健康増進法をはじめとする広告関連法令や自主規制について、会員社からの相談を無料で受け付けています。
公表されている相談例には、作成した広告物のチェック依頼、法改正時の対応確認、出稿依頼を受けた広告の問題点の指摘、SNS広告のステルスマーケティング規制への対応といった内容が挙げられています。代理店の実務課題と直結する内容です。
自治体の薬務主管課
薬機法上の該当性については、自治体の薬務主管課が相談を受け付けています。東京都の場合、保健医療局健康安全部薬務課の監視指導担当が予約制の面談で対応しており、広告代理店・放送媒体からの相談も対象とされています。
他の道府県の事業者は、該当する自治体の薬務主管課が窓口です。
行政の公表資料
消費者庁の措置命令の公表資料は、違反とされた具体的な表現が記載されているため、社内の教育資料として有用です。自社が扱う業種の事例を蓄積しておくと、判断基準が揃いやすくなります。
指摘した事実を記録に残す
体制づくりと並行して、必ず仕組みに入れておきたいのが記録です。
薬機法は「何人も」を規制対象とするため、クライアントの指示であっても代理店が規制対象から外れるわけではありません。だからこそ、問題のある表現を指摘した事実を残すことが、自社を守る材料になります。
- 修正提案をメールやチャットで行い、履歴を残す
- 口頭のやり取りで済ませず、議事録に残す
- クライアントが指摘を受け入れなかった場合、その経緯も記録する
責任回避のためだけでなく、自社の判断プロセスが適切であったことを示す材料になります。
チェック工数をどう確保するか
ここまでの体制は、運用に乗せると確実に効果があります。一方で、案件数が増えるほど確認工数は増えます。
とくに負担が大きいのが、7つの危険信号を全媒体で拾う作業です。原稿テキストだけでなく、バナー画像に焼き込まれた文言、動画のテロップ、LPの下部まで対象になります。担当者が目視で追うには限界があります。
「広告チェックAI」では、テキストだけでなく画像や動画をアップロードするだけで、薬機法・景品表示法・健康増進法をはじめとした各種法令に抵触する可能性のある表現を検知し、文脈に沿った代替表現の提案まで行うことができます。画像OCRによる焼き込み文字の抽出にも対応しており、ビフォーアフター画像や権威づけを想起させるビジュアルなど、文字情報以外の表現も判定の対象です(画像判定機能は特許出願中)。
処理速度の目安は、Webバナー1〜2枚であれば10秒以内、1〜3分程度の動画でも2〜3分程度。専門家がいない代理店にとっては、「一次チェックの担い手」として機能します。 AIが拾った箇所をクライアントへの確認事項に変換し、判断が難しいものだけ外部に回す。この流れが作れれば、専門部署がなくても体制は回ります。
属人化を解消し、判断基準を揃える
本記事で繰り返し触れてきたとおり、代理店のチェック業務は属人化しやすい構造にあります。この点でも有効な機能があります。
- 添削履歴をコメントとして残せるため、なぜその判断をしたのかが後から追えます
- 過去に作成した広告を履歴から随時確認できるため、「前回この表現はどう処理したか」を参照できます
担当者が変わっても判断基準が引き継がれ、社内の監査基準を統一する土台になります。チェック体制の属人化に課題を感じているマネージャー層にとって、導入効果が見えやすい部分です。
クライアントごとの基準を組み込める
自社ルールの追加に対応しているため、クライアントごとの独自基準を反映した運用が可能です。さらに、社内ルールや過去の監査データをAIに学習させることで、自社専用のカスタマイズ版チェックツールを開発することもできます。
複数クライアントを抱え、それぞれに異なる表現基準がある代理店では、この柔軟性が実務上の差になります。
料金は初期費用無料で、月額制でご利用いただけます。法令チェック体制に課題を感じている方は、ぜひ資料請求でプランの詳細や料金をご確認ください。
よくある質問
Q. 社内に薬事の専門家がいない場合、医療や健康食品の案件は受けるべきではないですか?
そうとは限りません。 重要なのは、自社で全て判断しようとしないことです。危険な表現を拾い、クライアントに根拠を確認し、判断が難しいものを外部に回す仕組みがあれば、専門部署がなくても案件を進められます。むしろ問題なのは、確認工程を持たないまま「クライアントが見ているはず」と進めてしまうケースです。
Q. クライアントに細かく確認すると、面倒な会社だと思われませんか?
確認事項に答えられない状態は、クライアント自身がリスクを抱えている状態です。措置命令を受ければ事業者名が公表され、影響を受けるのはクライアントです。リスクを事前に潰す提案として伝えれば、むしろ信頼につながります。
Q. クライアントの指示どおりに作った場合でも、代理店が責任を問われますか?
薬機法第66条第1項は「何人も」を規制対象としているため、指示元がクライアントであっても代理店が規制の対象外となるわけではありません。景品表示法については原則として広告主が責任主体ですが、自社の制作物がクライアントにリスクをもたらすという点は変わりません。問題のある表現を指摘した記録を残しておくことが重要です。
Q. 7つの危険信号に該当したら、必ず削除すべきですか?
いいえ。該当することと違反であることは別です。確認工程に入れるべきサインであり、根拠が確認できれば使用できる表現も多くあります。削りすぎると訴求力を不必要に落とすことになるため、まず確認する、という運用が適切です。
Q. どこから専門家に相談すべきか、判断がつきません。
「商材の区分自体が不明確」「根拠資料を見ても十分か判断できない」「前例がなく影響が大きい」のいずれかに当てはまれば、相談を検討する目安になります。JAROの会員相談室や自治体の薬務主管課など、代理店からの相談を受け付けている窓口があります。
まとめ
専門家が社内にいない代理店が押さえるべきポイントは、次の3点です。
- 目指すのは「全部わかる」ことではなく、「拾ってエスカレーションできる」こと
- 7つの危険信号(言い切り/最上級/数値/第三者の声/ビフォーアフター/期間限定/権威づけ)を確認工程の入口にする
- 判断材料はクライアント側にある。確認質問をテンプレート化して必ず聞く
法令知識を一から習得するより、仕組みを作るほうが早く、担当者が変わっても機能します。まずは確認質問のテンプレートを作るところから始めてみてください。
出典: 薬機法第66条第1項・第2項、景品表示法第5条、公益社団法人日本広告審査機構(JARO)公表情報、東京都保健医療局健康安全部薬務課監視指導担当「雑貨等の広告について(薬事該当性)」
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