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景表法は広告主、薬機法は「何人も」|代理店・制作会社が直接責任を問われる構造を解説

2026.09.12

景品表示法の規制対象は「自己の供給する商品」の表示であり、原則として広告主(商品を販売する事業者)です。一方、薬機法第66条第1項は「何人も」を規制対象としており、商品を販売していない広告代理店や制作会社にも直接適用されます。2020年のステラ漢方事件では、広告主に加えて広告代理店・制作会社の社員も薬機法違反で逮捕されました。「うちは作っているだけ」という認識は、ヘルスケア案件では通用しません。

ヘルスケア領域(健康食品・化粧品・医薬部外品)の案件を受託している代理店・制作会社にとって、景品表示法と薬機法の責任構造の違いは、知っておくべき最重要論点です。本記事では、この違いがどこから生じるのか、実際の摘発事例で何が起きたのか、そして受託側として自社を守るために何をすべきかを整理します。

景表法と薬機法で、責任の構造がまったく違う

まず押さえるべき条文の違い

両法の規制対象を条文レベルで比較すると、構造の違いが明確になります。

景品表示法薬機法
規制対象事業者が「自己の供給する商品・サービス」について行う表示何人も」(第66条第1項)
代理店への直接適用原則として対象外対象となる
根拠の考え方商品を供給する主体の表示を規律する建て付け広告・記述・流布する行為そのものを規律する建て付け

景表法:代理店は原則として規制対象外

景品表示法の規制対象である「広告その他の表示」とは、事業者が「自己の」供給する商品・サービスの取引に関する事項について行うものとされています。

そのため、広告代理店やメディア媒体は、商品・サービスの広告の制作等に関与していても、広告主と共同して商品を供給していると認められない限り、あくまで広告主の表示の制作等に関与した者にとどまり、景品表示法の規制対象とはならないと整理されています(消費者庁関係者による解説書の記述に基づく整理)。

ただし注意が必要なのは、景品表示法上の責任が広告主に集約されるということは、代理店が作った表現の問題がクライアントに跳ね返るという意味でもある点です。責任を問われないことは、リスクがないことと同義ではありません。措置命令は事業者名が公表されるため、クライアントの信用を損なえば取引継続そのものに影響します。

薬機法:「何人も」に代理店が含まれる

一方、薬機法第66条第1項は次のように定めています。

何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。

主語が「何人も」であることがポイントです。医薬品等の製造販売業者だけでなく、卸販売業者、そして製造業者から単に依頼を受けた広告代理店も規制対象に含まれます。

さらに同条第2項では、効能・効果・性能について医師その他の者が保証したものと誤解されるおそれがある記事の広告・記述・流布も、誇大広告等に当たるとされています。「医師監修」「専門家推薦」といった表現の扱いに注意が必要なのは、この規定があるためです。

ステラ漢方事件:制作会社の社員まで逮捕された事例

何が起きたのか

2020年7月21日、医薬品として未承認の健康食品を肝臓機能の改善に効果があるかのようにインターネットで宣伝したとして、薬機法違反で健康食品販売会社、広告代理店、制作会社の社員ら6人が逮捕される事件が起きました。

この事件が業界に衝撃を与えたのは、次の2点です。

① 景品表示法ではなく薬機法での摘発だった

記事風広告・アフィリエイト広告が問題となった過去の事案(2018年のブレインハーツ事案など)は景品表示法の優良誤認表示として処理されていました。しかしこの事件は薬機法違反での逮捕であり、「何人も」規制により広告主以外にも責任が及びました。

② 広告主・代理店・制作会社の3社の関係者が同時に逮捕された

広告を実際に制作した側、仕組みを提供・管理する側にも責任が追及されたという点で、前例のない事案でした。

従来の摘発対象との違い

従来、薬機法違反で摘発される事案の効果効能訴求の対象は、ガン、糖尿病、新型コロナウイルスといった重篤な疾患が中心でした。「ガンに効く」とうたう健康食品が本来受けるべき適切な医療機会を奪うことを考えれば、当然の措置といえます。

しかしこの事件では、重篤とまでは言えない肝臓疾患に対する効果効能表現が違反とみなされました。 あらゆるジャンルの健康食品を扱う事業者が摘発対象になり得ることが、前例として示されたことになります。

なお、この事件で特に問題視されたのは体験談の捏造だったと言われています。実在しない使用者の声を創作して掲載する行為は、表現の強弱の問題ではなく、事実そのものを偽る行為です。制作の現場で「効果がありそうな体験談を用意してほしい」という依頼を受けた場合、それが創作を意味するのであれば、明確に断るべき領域です。

課徴金は代理店に適用されるのか

結論:原則として対象外

令和元年改正薬機法により、虚偽・誇大広告規制違反に対する課徴金制度が創設され、2021年8月1日から施行されました。課徴金納付命令が出されると、違反行為期間中の対象商品の売上額の4.5%に相当する額の納付が命じられます。

ここで実務上の関心事となったのが、「代理店も課徴金の対象になるのか」という点です。薬機法は「何人も」を規制対象とし、かつ景品表示法にあるような「不当表示に該当することを知らず、知らないことにつき相当の注意を怠っていない場合は対象から除外する」という規定(景品表示法第8条第1項但書)を持たないため、無過失の代理店まで課徴金の対象になるのかが問題となりました。

この点について、法律事務所の解説では、代理店による虚偽・誇大広告規制違反は課徴金制度の対象とはならないと整理されています。

なぜ対象外になるのか

理由は課徴金の算定構造にあります。課徴金は「対象商品の売上額」に対して課される制度です。この「売上」には、製造販売業者、卸販売業者、販売業者等が市場に出荷している化粧品や医薬部外品の販売による売上が含まれますが、新聞社、雑誌社、放送事業者、インターネット媒体の社内広告媒体事業者、および他の広告媒体事業者に対して広告の注文・取次を行う広告代理店やサービスプロバイダーが行う業務は含まれないとされています(令和3年7月6日付 厚生労働省の課徴金算定方法に関するパブリックコメント回答参照)。

課徴金は、虚偽・誇大広告を行った品目の売上を剥奪することで経済的利益を得られないようにする制度であり、代理店は品目そのものを販売しているわけではないため、算定の対象にならないという構造です。

ただし、安心材料にはならない

重要なのは、課徴金の対象外であることと、責任を問われないことは別だという点です。

  • 刑事罰の対象にはなり得ます。ステラ漢方事件が示したとおり、逮捕・起訴のリスクは現に存在します
  • 上記の整理はあくまで基本的な制度の理解であり、今後の運用によっては例外もあり得ます
  • 医薬品等に関する広告を扱う代理店は、薬機法・景品表示法への抵触可能性について常に留意する必要があるという点は変わりません

受託側として自社を守る実務

責任構造を理解したうえで、代理店・制作会社が取るべき具体的な対応を整理します。

① 「クライアント指示」の記録を残す

薬機法は「何人も」を対象とするため、指示元がクライアントであっても自社が規制対象から外れるわけではありません。だからこそ、問題のある表現について指摘した事実を記録として残すことが重要です。

  • 修正提案をメールやチャットで行い、履歴を残す
  • 口頭でのやり取りで済ませず、議事録に残す
  • クライアントが指摘を受け入れなかった場合、その経緯も記録する

これは責任回避のためだけでなく、自社の判断プロセスが適切であったことを示す材料になります。

② 体験談・口コミの取り扱いルールを明文化する

ステラ漢方事件で問題視されたのが体験談だったことを踏まえ、社内ルールとして次の点を明確にしておくべきです。

  • 実在しない使用者の声を創作しない
  • 実在する声であっても、効果効能を断定する表現は使用しない
  • 収集経路(モニター、アンケート等)と対価の有無を記録しておく

③ 受託範囲と責任分担を契約で明確にする

  • 原稿・素材の提供元がクライアントである場合、その内容の正確性についてどちらが責任を持つのか
  • 薬事チェック・リーガルチェックを自社の業務範囲に含めるのか、クライアント側で行うのか
  • 行政から指摘を受けた場合の修正対応が受託範囲に含まれるのか

これらを曖昧にしたまま進行すると、問題が生じた際の対応が紛争化しやすくなります。

④ 案件着手前に商品区分を確認する

薬機法の適用範囲は、医薬品・医薬部外品・化粧品・医療機器・再生医療等製品です。一方、いわゆる健康食品は薬機法上の医薬品ではありませんが、医薬品的な効能効果を謳うと未承認医薬品の広告(薬機法第68条違反)となり得ます。

「食品だから薬機法は関係ない」という理解は誤りです。案件着手時に、商材が薬機法上どの区分にあたるのか、謳える表現の範囲はどこまでかを確認しておく必要があります。

チェック工数という現実問題

ここまでの内容を、複数案件を並行して抱えながら人力で徹底するのは容易ではありません。

とくに代理店・制作会社の場合、扱う商材のジャンルが案件ごとに異なります。健康食品、化粧品、医薬部外品、医療機器と、それぞれ適用される規制の範囲が変わるため、担当者の知識だけで判断しきるのは現実的ではありません。加えて、景品表示法の観点(優良誤認・有利誤認・ステマ告示)も同時に確認する必要があります。

「広告チェックAI」では、テキストや画像を入力するだけで、薬機法・景品表示法をはじめとした各種法令に抵触する可能性のある表現を検知し、代替表現の提案まで行うことができます。制作物の一次チェックを効率化することで、専門家が本当に判断すべき論点に集中できる体制を作れます。自社ルールやクライアント固有の基準を追加した運用にも対応しています。ヘルスケア案件のチェック体制に課題を感じている方は、ぜひ資料請求でサービス内容をご確認ください。

よくある質問

Q. クライアントから渡された原稿をそのまま使った場合も、代理店が責任を問われますか?

薬機法は「何人も」を規制対象としているため、原稿の出所がクライアントであっても、虚偽・誇大な広告を「広告し、記述し、又は流布した」事実があれば規制の対象となり得ます。実務上は、問題のある表現を指摘した記録を残すことが重要です。

Q. 景品表示法では代理店は責任を問われないのですか?

景品表示法の規制対象は「自己の供給する商品・サービス」の表示であるため、原則として広告主が責任主体となります。ただし、広告主と共同して商品を供給していると認められる場合は別です。また、責任を問われないことと、自社の制作物がクライアントにリスクをもたらさないことは別問題です。

Q. 健康食品の案件は薬機法の対象外ですか?

いわゆる健康食品は薬機法上の医薬品ではありませんが、医薬品的な効能効果を謳った場合、未承認医薬品の広告として薬機法第68条違反となり得ます。ステラ漢方事件も健康食品の案件でした。「食品だから対象外」という理解は誤りです。

Q. 薬機法の課徴金は代理店にも課されますか?

課徴金は対象商品の売上額に対して課される制度であり、広告の注文・取次を行う代理店の業務による売上は算定に含まれないとされています。そのため原則として対象外と整理されていますが、刑事罰のリスクは別途存在します。

Q. 「医師監修」という表記は問題になりますか?

薬機法第66条第2項は、効能・効果・性能について医師その他の者が保証したものと誤解されるおそれがある記事の広告等を誇大広告等に当たるとしています。監修の事実があること自体が直ちに違反となるわけではありませんが、医師の存在によって効果が保証されているかのような印象を与える構成は避ける必要があります。

まとめ

代理店・制作会社がヘルスケア案件を扱う際に押さえておくべきポイントは、次の3点です。

  • 景品表示法は「自己の供給する商品」の表示を規律するため原則広告主が責任主体だが、薬機法は「何人も」を対象とし代理店にも直接適用される
  • ステラ漢方事件では制作会社の社員まで逮捕された。重篤疾患以外の効能訴求でも摘発対象になり得る
  • 課徴金は品目の売上を基準とするため代理店は原則対象外だが、刑事罰のリスクは別に存在する

「作っているだけ」という立場は、薬機法の条文上、存在しません。案件着手前の商品区分の確認、表現の指摘記録、契約上の責任分担の明確化を、仕組みとして組み込んでおくことが現実的な自衛策になります。

出典: 薬機法第66条、第68条、第75条の5の2/景品表示法第8条第1項/馬場・澤田法律事務所「令和3年8月施行薬機法課徴金制度の広告代理店への適用可能性」/報道各社によるステラ漢方事件関連報道(2020年7月)


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